第三款 イスラエル人に取りての大いなる慰。
1 然らば我は言はん、神は其民を棄て給ひしかと、然らず、其は我もイスラエル人にして、アブラハムの裔、ベンヤミンの族なればなり。
2 神は豫知し給ひし己の民を棄て給はざりしなり。汝等エリアに就きて聖書の曰へる事を知らざるか、即ち彼イスラエル人を神に訟へて言へらく、
3 「主よ、彼等は主の預言者等を殺し、悉く主の祭壇を毀てり、然て我一人殘れるに、尚我命を求めんとするなり」と。
4 而して神の御答に何と曰へるぞ、「我は己の爲に、バアルの前に跪かざる七千の男子を殘したるなり」と。
5 斯の如く、今の時も亦恩寵の擇に由りて殘れる者は救はれたり。
6 恩寵に由れば業に由るに非ず、然らざれば恩寵は最早恩寵に非ざるべし。
7 然らば何ぞや、イスラエル人は其求め居たりし所を得ず、擇まれたる人は之を得て、他の人は頑固になれり。
8 録して、「神は彼等に茫然たる精神、見得べからざる目、聞得べからざる耳を賜ひて今日に至る」、とあるが如し。
9 ダヴィド又曰く「願はくは彼等の食卓、網となり、罠となり、躓くものとなり、報となれかし、
10 其目は眩みて見えざらしめ、其背は何時も屈ましめ給へ」、と。
11 然れば我は言はん、彼等の躓きしは倒れん爲なるかと、然らず、却て彼等を妬ましむる様、其墮落によりて、救は異邦人の上に來れり。
12 若彼等の墮落が世の富となり、其減少は異邦人の富とならば、況や彼等の全數をや。
13 蓋我、汝等異邦人に謂はん、我異邦人の使徒たる間は、我[聖]役に榮譽を來さん。
14 是如何にもして、我骨肉たる者を刺激して之を励まし、其幾何かを救はん爲なり。
15 蓋彼等の排斥が世の和睦とならば、其採用は豈死より再生するに同じからざらんや。
16 若麪の初薦聖ならば全體も然あるべく、根聖ならば枝も然あるべし。
17 假令幾何かの枝折られて、野生の橄欖たりし汝之に接がれ、橄欖の根と液汁とを共にするものとなりたりとも、
18 枝に向ひて誇ること勿れ、誇らんとするも、汝が根を保つに非ずして根こそ汝を保つなれ。
19 汝或は言はん、枝の折られしは我が接がれん爲なりと。
20 諾し、彼等は其不信仰に由りて折られしに、汝は信仰に由りて立てるなり。然れど驕ること勿れ、却て懼れよ。
21 蓋神は原樹の枝を惜み給はざりしなれば、恐くは汝をも惜み給はざるべし。
22 然れば神の慈愛と嚴格とを見よ、倒れし人々に對しては惟嚴格、汝に對しては惟慈愛、但是汝が其慈愛に止ればのみ、然らずんば汝も取除かるべし。
23 彼等も若不信仰に止らずば接がるるならん、其は神は再び之を接ぐことを得給へばなり。
24 汝は生來野生なる橄欖より切取られ、其本性に反して好き橄欖に接がれたれば、況や本性のものが原の橄欖に接がるるをや。
25 兄弟等よ、自ら敏しとする事なからん爲に、我は汝等が此奥義を知らざるを好まず、即ちイスラエルの幾部分の頑固になれるは、異邦人全體の入來るまでなり。
26 斯てイスラエルは擧りて救はるるに至るべし、録して、「救ふ者シオンに來り、ヤコブより不敬を去らしめん。
27 我彼等の罪を取除きたらん時、彼等と結ぶべき約束は是なり」、とあるが如し。
28 福音に就きては、彼等汝等の爲に敵なれども、選拔に就きては其祖先の爲に至愛の者なり、
29 其は神の賜と召とは、取消さるる事なければなり。
30 斯て汝等も原神に從はざりしに、今や彼等の不從順に由りて慈悲を蒙りし如く、
31 今彼等の從はざるも亦汝等の[蒙りし]慈悲に由りて己も慈悲を蒙らん爲なり。
32 是衆人を憫み給はん爲に、神が之を不從順に籠め給へるなり。
33 嗚呼高大なる哉、神の富と智慧と智識と。其判定の覺り難さよ、其道の極め難さよ。
34 誰か主の御心を知り、誰か之と共に議りたるぞ。
35 誰か先之に與へて、其報を得ん者ぞ。
36 蓋萬事は彼に倚りて彼を以て彼の爲に在り、光榮世彼に歸す、アメン。