26_02

第2章 (ルカ聖福音書)

 第二項 イエズス、キリストの御降誕。

1 其その頃ころ、天てん下かの戸こ籍せきを取とり調しらぶべしとの詔みことのり、セザル、オグストより出いでしが、 2 此この戸こ籍せき調しらべは、シリノがシリアの總そう督とくたりし時ときに始はじめたるものなり。 3 斯かくて人ひと皆みな名なを届とどけんとて、各おのおの其その故こ郷きゃうに至いたりけるに、 4 ヨゼフもダヴィド家いへに屬ぞくし且かつ其その血ち統すぢなれば、 5 旣すでに懷くわい胎たいせる聘定いいなづけの妻つまマリアと共ともに名なを届とどけんとて、ガリレアのナザレト町まちよりユデアのベトレヘムと云いへるダヴィドの町まちに上のぼれり。 6 其處そこに居をりし程ほどに、マリア產さん期き滿みちて、 7 冢うひ子ごを生うみ、布ぬのに包つつみて馬うま槽ぶねに臥ふさせ置おきたり。 是これ、旅はた舍ごやに彼かれ等らの居をる所ところなかりし故ゆゑなり。
8 然しかるに此この地ち方はうに牧ぼく者しゃ等らありて、夜や中ちゅう交かう代たいして己おのが群むれを守まもり居をりしが、 9 折をりしも主しゅの使つかひ其その傍かたはらに立たちて、神かみの榮えい光くわう彼かれ等らを環めぐり照てらしたれば、彼かれ等ら大おほいに懼おそれたり。 10 天てん使し彼かれ等らに云いひけるは、懼おそるる事こと勿なかれ、其そは我われ人じん民みん一般ぱんに及およびぶべき大おほいなる喜よろこびの福音ふくいんを汝なんぢ等らに告つぐればなり。 11 蓋けだし今け日ふダヴィドの町まちに於おいて、汝なんぢ等らの爲ために救すくひ主ぬし生うまれ給たまへり、是これ主しゅたるキリストなり。 12 汝なんぢ等ら之これを以もって徴しるしとせよ、即すなはち布ぬのにて包つつまれ、馬うま槽ぶねに置おかれたる嬰兒みどりごを見みるべし、と。 13 忽たちまちち夥おびただしき天てん軍ぐん天てん使しに加くははりて、神かみを讚さん美びし、 14 「最いと高たかき處ところには神かみに光くわう榮えい、地ちには御ご好かう意いの人々ひとびとに平へい安あん」と唱となへたり。 15 天てん使し等たち天てんに去さりて後のち、牧ぼく者しゃ等ら云いひけるは、將はた我われ等らベトレヘムまで行ゆき、主しゅの我われ等らに示しめし給たまへる事ことの次し第だいを見みん、と。 16 乃すなはちち急いそぎ至いたりて、マリアとヨゼフと馬うま槽ぶねに置おかれたる孩兒をさなごとに遇あへり。 17 然さて面まのあたりに見みて、此この孩兒をさなごに就つきて云いはれし事ことを知しらせければ、 18 聞きける人ひと皆みな牧ぼく者しゃ等らより云いはるる事ことを不ふ思し議ぎに思おもひしが、 19 マリアは是これ等らの事ことを悉ことごとく心こころに納をさめて考かんがへ合あはせ居ゐたり。 20 斯かくて牧ぼく者しゃ等らは、己おのれに云いはれしに違たがはず、見み聞ききせし一切いっさいの事ことに就つきて、神かみに光くわう榮えいを歸きし、且かつ讚さん美びし奉たてまつりつつ歸かへれり。 21 孩兒をさなごの割かつ禮れいを授さづかるべき八日やうか目めに至いたりて、未いまだ胎たい内ないに孕やどらざる前まへに天てん使しより云いはれし如ごとく、名なをイエズスと呼よばれ給たまへり。

 第三項 キリスト御幼年。

22 然さてモイゼの律法りっぱうの儘ままに、マリアが潔きよめの日ひ數かず滿みちて後のち、[兩ふた親おや]孩兒をさなごを主しゅに献ささげん爲ため、携たづさへてエルザレムに往ゆけり。 23 是これ主しゅの律法りっぱうに錄かきしるして「總すべて初はじめに生うまるる男だん子しは、主しゅの爲ために聖せいなる者ものと稱となへらるべし」とあるが故ゆゑにして、 24 又また主しゅの律法りっぱうに云いはれたる如ごとく、山やま鳩ばと一ひと雙つがひか、鴿はとの雛ひな二羽はかを犠ぎ牲せいに献ささげん爲ためなりき。
25 折をりしもエルザレムに、シメオンと云いへる人ひとあり。義ぎ人じんにして神かみを畏ゐ敬けいし、イスラエル[の民たみ]の慰なぐさめられん事ことを待まちて、聖せい靈れいの居ゐ給たまふ所ところとなり、 26 聖せい靈れいより、主しゅのキリストを見みざるうちは、死しせざる事ことを示しめされたりしが、 27 [聖せい]靈れいによりて、[神しん]殿でんに至いたりしに、恰あたかも彼かの兩ふた親おや孩兒をさなごイエズスを携たづさへ、是これが爲ために律法りっぱうの慣くわん例れいに從したがひて行おこなはんとて來きたりければ、 28 シメオン孩兒をさなごを抱いだき、神かみを祝しゅくし奉たてまつりて云いひけるは、 29 主しゅよ、今いまこそ御み言ことばに從したがひて僕しもべを安あん樂らくに逝ゆかしめ給たまふなれ、 30 其そは我わが目め主しゅの救すくひを見みたればなり。 31 是これぞ主しゅが萬ばん民みんの前まへに備そなへ給たまひし者ものにして、 32 異い邦はう人じんを照てらすべき光ひかり、主しゅの民たみたるイスラエルの光くわう榮えいなる、と。
33 イエズスの父ちち母ははは、孩兒をさなごに就つきて云いはれたる事ことを驚きゃう嘆たんしたりしが、 34 シメオン彼かれ等らを祝しゅくして、母ははマリアに云いひけるは、此この子こは、是これイスラエルに於おいて、多おほくの人ひとの墮だ落らくと復ふく活くわつとの爲ために置おかれ、且かつ反抗さからひを受うくる徴しるしに立たてられたり、 35 汝なんぢの魂たましひも劔つるぎにて刺さし貫つらぬかるべく、而しかして多おほくの心こころの念おもひ顯あらはるべし、と。
36 又またアゼル族ぞくなるファヌエルの女むすめに、名なはアンナ[と云いひて]、旣すでに至し極ごくの老らう年ねんに及およびべる女をんな預よ言げん者しゃあり。處女をとめの時ときより七年ねんの間あひだ、夫をっとと共ともに在ありしに、 37 寡婦やもめとなりて、齢よはひ八十四に至いたり、[神しん]殿でんを離はなれず、斷だん食じきと祈き禱たうとを以もって晝ちゅう夜や奉ほう事じし居をりしが、 38 是これも同どう時じに來きたりて、主しゅを稱しょう讚さんし、エルザレムに於おいて、贖罪あがなひを待まてる人々ひとびとに孩兒をさなごの事ことを語かたり居ゐたりき。
39 [兩ふた親おやは]主しゅの律法りっぱうの儘ままに何なに事ごとをも果はたし、ガリレアのナザレトなる己おのが町まちに歸かへりしが、 40 孩兒をさなご漸やうやく成せい長ちゃうして、智ち慧ゑに滿みち、精せい神しんの力ちから彌いや增まし給たまひ、神かみの恩おん寵ちょう其その上うへに在ありき。
41 然さて過すぎ越こしの大だい祝しゅく日じつには、兩ふた親おや年とし毎ごとにエルザレムに往ゆき居をりしが、 42 イエズス十二歳さいになり給たまひし時とき、兩ふた親おや祝しゅく日じつの慣くわん例れいの儘ままにエルザレムに上のぼりしに、 43 祝しゅく日じつ過すぎて歸かへる時とき、幼をさなきイエズスはエルザレムに留とどり給たまへり。兩ふた親おやは之これを知しらず、 44 道みち連づれの中うちに在あらんと思おもひつつ、一いち日にち路ぢを往ゆき、然さて親しん族ぞく知ち己きの中うちを求もとめたれども、逢あはざりしかば、 45 尋たづねつつエルザレムに立たち歸かへりしに、 46 三日みっか目めに、イエズスが[神しん]殿でんにて學がく者しゃの中うちに坐ざし、彼かれ等らに聞きき且かつ問とひ居ゐ給たまへるを見み付つけたり。 47 聞きく人ひと皆みな其その智ち慧ゑと應答こたへとに驚おどろき居ゐたりしが、 48 兩ふた親おやは之これを見みて感かん嘆たんせり。斯かくて母はははイエズスに向むかひ、子こよ、何なに故ゆゑ我われ等らに斯かかる事ことを爲なししぞ。看みよ、汝なんぢの父ちちと我われとは憂うれひつつ汝なんぢを尋たづね居ゐたり、と云いひければ、 49 イエズス曰のたまひけるは、何なんぞ我われを尋たづねたるや。我われは我わが父ちちの事ことを務つとむべきを知しらざりしか、と。 50 兩ふた親おやは此この語かたり給たまひし御おん言ことばを曉さとらざりき。 51 然さてイエズス彼かれ等らと共ともに下くだり、ナザレトに至いたりて彼かれ等らに從したがひ居ゐ給たまひしが、母ははは此この總すべての事ことを心こころに納をさめ居ゐたりき。 52 斯かくてイエズス智ち慧ゑも齢よはひも、神かみと人ひととに於おける寵ちゃう愛あいも次し第だいに彌いや增まし居ゐ給たまへり。