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第10章 (ヨハネ聖福音書)

  第三款 善き牧者。

1 誠まことに實まことに汝なんぢ等らに告つぐ、羊ひつじの檻に入いるに、門もんよりせずして他たの處ところより越こゆるは、盗ぬす人びとなり强盗がうたうなり、 2 門もんより入いるは羊ひつじの牧ぼく者しゃなり。 3 門もん番ばんは彼かれに戸とを開ひらき、羊ひつじは其その聲こゑを聽きき、彼かれ亦また己おのが羊ひつじを一々いちいちに名な指ざして引ひき出いだす、 4 斯かくて其その羊ひつじを出いだせば、彼かれ先さきだちて往ゆき羊ひつじ之これに從したがふ、其その聲こゑを知しればなり、 5 然しかれども他た人にんには從したがはず、却かへって之これを避さく、他た人にんの聲こゑを知しらざればなり、と。 6 イエズス此この喩たとへを彼かれ等らに曰のたまひしかど、彼かれ等らは其その語かたり給たまふ所ところの何なにたるを曉さとらざりき。
7 然さればイエズス再ふたたび彼かれ等らに曰のたまひけるは、誠まことに實まことに汝なんぢ等らに告つぐ、我われは羊ひつじの門もんなり、 8 已すでに來きたりし人ひとは皆みな盗ぬす人びと、强盗がうたうにして、羊ひつじ之これに聽き從したがはざりき。 9 我われは門もんなり、人ひと若もし我われに由よりて入いらば救すくはれ、出いで入いりして牧まき場ばを得うべし。 10 盗ぬす人びとの來きたるは盗ぬすみ、殺ころし、亡ほろぼさんとするに外ほかならざれども、 11 我わが來きたれるは羊ひつじが生命せいめいを得え、而しかも尚なほ豐ゆたかに得えん爲ためなり。我われは善よき牧ぼく者しゃなり、善よき牧ぼく者しゃは其その羊ひつじの爲ために生命いのちを棄すつ、 12 然しかれども牧ぼく者しゃに非あらずして羊ひつじ吾わが物ものに非あらざる被雇やとはれ人びとは、狼おほかみの來きたるを見みれば羊ひつじを棄すてて逃のがげ、狼おほかみは羊ひつじを奪うばひ且かつ追おひ散ちす。 13 被雇やとはれ人びとの逃にぐるは、被雇やとはれ人びとにして羊ひつじを勞いたはらざる故ゆゑなり。 14 我われは善よき牧ぼく者しゃにして我わが羊ひつじを知しり、我わが羊ひつじ亦また我われを知しる、 15 恰あたかも父ちち我われを知しり給たまひ、我われ亦また父ちちを知しり奉たてまつるが如ごとし、斯かくて我われは我わが羊ひつじの爲ために生命いのちを棄すつ。 16 我われは又また此この檻をりに屬ぞくせざる他たの羊ひつじを有もてり、彼かれ等らをも引ひき來きたらざるべからず、然さて彼かれ等ら我わが聲こゑを聞きき、斯かくて一ひとつの檻をり、一ひとりの牧ぼく者しゃとなるべし。 17 父ちちの我われを愛あいし給たまへるは、之これを再ふたたび取とらんが爲ために我わが生命いのちを棄すつるに因よる、 18 誰たれも之これを我われより奪うばふ者ものはあらず、我われこそ自みづから之これを棄すつるなれ。我われは之これを棄すつるの權けんを有いうし、又また再ふたたび之これを取とるの權けんを有いうす、是これ我わが父ちちより受うけたる命めいなり、と。
19 是これ等らの談ものがたりの爲ために、ユデア人じんの中うちに復また諍論いさかひ起おこれり、 20 其その中うちには、彼かれは惡あく魔まに憑つかれて狂くるへるなり、汝なんぢ等ら何なんぞ之これに聽きくや、と云いふ人ひと多おほかりしが、 21 他たの人ひとは、是これ惡あく魔まに憑つかれたる者ものの言ことばに非あらず、惡あく魔ま豈あに瞽者めしひの目めを明あくことを得えんや、と云いひ居ゐたり。

  第四款 イエズス奉殿紀念祭に上り給ふ。

22 然さてエルザレムに奉ほう殿でん紀き念ねん祭さい行おこなはれて、時ときは冬ふゆなりしが、 23 イエズス[神しん]殿でんに在ありてサロモンの廊らうを歩あゆみ居ゐ給たまふに、 24 ユデア人じん之これを取とり圍かこみて、汝なんぢ何時いつまで我われ等らの心こころを疑ぎ惑わくせしむるぞ、汝なんぢ若もしキリストならば、明白あからさまに我われ等らに告つげよ、と云いひければ、 25 イエズス彼かれ等らに答こたへ給たまひけるは、我われ汝なんぢ等らに語かたれども汝なんぢ等ら信しんぜざるなり、我わが父ちちの御み名なを以もって行おこなへる業わざ、是これぞ我われを證しょう明めいするものなるに、 26 汝なんぢ等ら尚なほ之これを信しんぜず、是これ我わ が羊ひつじの數かずに入いらざればなり。 27 我わが羊ひつじは我わが聲こゑを聽きき、我われ彼かれ等らを知しり、彼かれ等ら我われに從したがふ、 28 斯かくて我われ永えい遠ゑんの生命せいめいを彼かれ等らに與あたふ、彼かれ等ら長久とこしなへに亡ほろびず、誰たれも彼かれ等らを我わが手てより奪うばはじ、 29 之これを我われに賜たまひたる我わが父ちちは、一切いっさいに優すぐれて偉ゐ大だいに在ましまし、誰たれも我わが父ちちの御み手てより之これを奪うばひ得うる者ものなし、 30 我われと父ちちとは一ひとつなり、と。
31 是ここに於おいてユデア人じん石いしを取とりてイエズスに擲なげうたんとせしかば、 32 イエズス彼かれ等らに曰のたまひけるは、我われわが父ちちに由よれる善ぜん業げふを多おほく汝なんぢ等らに示しめししが、汝なんぢ等ら其その孰いづれの爲ために我われに石いしを擲なげうたんとはするぞ。 33 ユデア人じん答こたへけるは、我われ等らが汝なんぢに石いしを擲なげうつは善ぜん業げふの爲ために非あらず、冒ばう瀆とくの爲ため、且かつ汝なんぢが人ひとにてありながら己おのれを神かみとする故ゆゑなり。 34 イエズス彼かれ等らに答こたへ給たまひけるは、汝なんぢ等らの律法りっぱうに錄かきしるして「我われ言いへらく、汝なんぢ等らは神かみなり」とあるに非あらずや、 35 斯かく神かみの言ことばを告つげられたる人々ひとびとを神かみと呼よびたるに、而しかも聖書せいしょは廢はいすべからず、我われは神かみの子こなりと言いひたればとて、 36 汝なんぢ等らは、父ちちの聖せい成せいして世よに遣つかはし給たまひし者ものに向むかひて、汝なんぢは冒ばう瀆とくすと謂いふか、 37 我われもし我わが父ちちの業わざを爲なさずば我われを信しんずること勿なかれ、 38 然されど我われもし之これを爲なさば、敢あへて我われを信しんぜずとも業わざを信しんぜよ、然さらば父ちちの我われに在いまし我われの父ちちに居をる事ことを曉さとりて信しんずるに至いたらん、と。
39 是ここに於おいて彼かれ等らイエズスを捕とらへんと謀はかれるを、彼かれ等らの手てを遁のがれて、 40 ヨルダン[河がは]の彼方かなた、ヨハネが初はじめに洗せんしつつありし處ところに至いたり、其處そこに留とどまり給たまひしに、 41 多おほくの人ひと御おん許もとに來きたりて、ヨハネは何なんの奇き蹟せきをも行おこなはざりしかど、 42 此この人ひとに就つきて告つげし事ことは悉ことごとく眞まことなりき、と云いひつつイエズスを信しん仰かうせる者もの多おほかりき。