26_02

第16章 (ルカ聖福音書)

1 イエズス又また弟子でし等たちに曰のたまひけるは、或ある富ふ豪がうに一人ひとりの家か令れいありしが、主しゅ人じんの財ざい產さんを浪らう費ひせりとて、訟うったへ出いでられしかば、 2 主しゅ人じん彼かれを召よび、我わが汝なんぢに就つきて聞きく所ところは是これ何なに事ごとぞや、汝なんぢ最も早はや家か令れいたるを得えざれば、家か令れいたりし時ときの會くわい計けいを差さし出いだせ、と云いひしに、 3 家か令れい心こころの中うちに謂いひけるは、我わが主しゅ人じん家か令れいの職しょくを我われより褫はうばへる上うへは、我われ何なにを爲なすべきぞ、耕たがやす事ことは叶かなはず、乞こ食じきするは羞はづかし、 4 家か令れいを罷やめられたる後のち、人々ひとびとの家いへに承うけられん爲ためには、爲なすべき様やうこそあれ、とて、 5 主しゅ人じんに負ふ債さいある人々ひとびとを呼よび集あつめて、初はじめの一人ひとりに云いひけるは、我わが主しゅ人じんに對たいする汝なんぢの負ふ債さいは幾いく許ばくぞ、と。 6 彼かれ、油あぶら百樽たるなり、と云いひしに、家か令れい云いひけるは、汝なんぢの證しょう書しょを取とり、早はやく坐ざして五十と書かけ、と。 7 又また次つぎの者ものに云いひけるは、汝なんぢの負ふ債さいは幾いく許ばくぞと、彼かれ、麥むぎ百石こくなりと云いひしに、家か令れい云いひけるは、汝なんぢの證しょう書しょを取とりて八十と書かけ、と。 8 然しかるに主しゅ人じん、此この不ふ正せいなる家か令れいを譽ほめめて、其その手しゅ段だんを巧妙たくみなりとせり。蓋けだし此この世よの子こ等どもは互たがひに光ひかりの子こ等どもよりも巧妙たくみなればなり。
9 我われも亦また汝なんぢ等らに告つぐ、汝なんぢ等ら不ふ正せいの富とみを以もって友いう人じんを作つくり、息いき絶たえし後のち、汝なんぢ等らに永えい遠ゑんの住處すみかに承うけ入いれしむべく爲せよ。 10 抑そもそも小せう事じに忠ちゅうなる人ひとは大だい事じにも亦また忠ちゅうなり、小せう事じに不ふ正せいなる人ひとは大だい事じにも亦また不ふ正せいなり。 11 然されば汝なんぢ等ら若もしし不ふ正せいの富とみに於おいて忠ちゅうならざりせば、誰たれか眞まことの富とみを汝なんぢ等らに托たくせん。 12 又また他た人にんの物ものに於おいて忠ちゅうならざりせば、誰たれか汝なんぢ等らの物ものを汝なんぢ等らに與あたへん。
13 一人ひとりの僕しもべは二人ふたりの主しゅに兼かね事つかふること能あたはず、或あるひは一人ひとりを憎にくみて一人ひとりを愛あいし、或あるひは一人ひとりに從したがひて一人ひとりを疎うとむべければなり。汝なんぢ等らは神かみと富とみとに兼かね事つかふること能あたはず、[と宣のたまへり]。
14 然しかるに貪どん慾よくなるファリザイ人じん等ら、此この始し終じゅうの事ことを聞ききて嘲あざけりければ、 15 イエズス彼かれ等らに曰のたまひけるは、汝なんぢ等らは人ひとの前まへに自みづから義ぎとする者ものなり、然されど神かみは汝なんぢ等らの心こころを知しり給たまふ、蓋けだし人ひとに取とりて高たかき者ものは、神かみの御み前まへに憎にくむべき者ものなり。 16 律法りっぱうと預よ言げん者しゃ等たちとはヨハネを限かぎりとす、其その時ときより神かみの國くには宣のべ傳つたへられ、人ひと皆みな力ちからを盡つくして之これに到いたらんとす。 17 天てん地ちの廢すたるは、律法りっぱうの一畫くわくの墮おつるよりは易やすし。 18 總すべて妻つまを出いだして他たに娶めとる人ひとは姦淫かんいんを行おこなふ者ものなり、又また夫をっとより出いだされたる婦をんなを娶めとる人ひとは姦淫かんいんを行おこなふ者ものなり。
19 曾かつて一人ひとりの富ふ豪がうあり、緋ひ色いろの布ぬのと亜あ麻ま布ぬのとを纏まとひ、日々にちにち奢おごり暮くらしたるに、 20 又またラザルと云いへる一人ひとりの乞こ食じきあり、全ぜん身しん腫はれ縻ただれて富ふ豪がうの門もん前ぜんに偃ふし、 21 其その食しょく卓たくより落おつる屑くづに飽あき足たらん事ことを欲ほっすれども與あたふる人ひとなく、而しかも犬いぬ等ども來きたりて其その腫しゅ物ものを舐ねぶり居ゐたり。 22 然しかるに乞こ食じき死しにければ、天てん使しに携たづさへられてアブラハムの懷ふところに至いたりたるに、富ふ豪がうも亦また死しして地ぢ獄ごくに葬はうむられしが、 23 苦く痛つうの中うちに在ありて、目めを翹あげて、遥はるかにアブラハムと其その懷ふところなるラザルとを見み、 24 叫さけびて云いひけるは、父ちちアブラハムよ、我われを憫あはれみてラザルを遣つかはし、其その指ゆび先さきを水みづに浸ひたして我わが舌したを冷ひやさせ給たまへ、我われは此この焔ほのほの中うちに甚いたく苦くるしめるを、と。 25 アブラハム之これに云いひけるは、子こよ、汝なんぢが存ぞん命めいの間あひだ善よき物ものを受うけ、ラザルが同おなじ間あひだに惡あしき物ものを受うけしを記き憶おくせよ、然さればこそ今いま彼かれは慰なぐさめられて汝なんぢは苦くるしむなれ。 26 加之しかのみならず、我われ等らと汝なんぢ等らとの間あひだには大おほいなる淵ふちの定さめだ置おかれたれば、此處ここより汝なんぢ等らの處ところへ渡わたらんと欲ほっするも叶かなはず、其處そこより此處ここに移うつる事ことも叶かなはざるなり、と。 27 富ふ豪がう又また云いひけるは、然しからば父ちちよ、希こひねがはくはラザルを我わが父ちちの家いへに遣つかはし、 28 我われに兄きゃう弟だい五人にんあれば、彼かれ等らも亦また此この苦く惱なうの處ところに來きたらざる様やう、之これに證しょう明めいせしめ給たまへ、と。 29 アブラハム之これに云いひけるは、モイゼと預よ言げん者しゃ等たちとあれば、彼かれ等らは之これに聽きくべきなり、と。 30 富ふ豪がう、否いな父ちちアブラハムよ、然されど若もし死し者しゃの中うちより至いたる者ものあらば、彼かれ等ら改心かいしんすべし、と云いひければ、 31 アブラハム之これに向むかひて、若もしモイゼと預よ言げん者しゃ等たちとに聽きかざる彼かれ等らならば、假令たとひ死し者しゃの中うちより復ふく活くわつすとも信しんぜざるべし、と云いへり、と。