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第15章 (マルコ聖福音書)

 第三篇 イエズスの御復活及御昇天。

1 天よ明あけて直ただちに、大だい司し祭さい等らは、律法りっぱう學がく士し 長ちゃう老らう等ら及および全ぜん議ぎ會くわいと謀はかりてイエズスを縛しばり、召めし連つれれてピラトに付わたししが、 2 ピラト イエズスに向むかひ、汝なんぢはユデア人じんの王わうなるか、と問とひしに、答こたへて、汝なんぢの云いへる[如ごとし]、と曰のたまへり。 3 斯かくて大だい司し祭さい等ら數多あまたの事ことを以もって訴うったへければ、 4 ピラト復またイエズスに問とひて、汝なんぢは何なにをも答こたへざるか、彼かれ等らの汝なんぢを訴うったふる事こと柄がらの如何いかばかりなるかを看みよ、と云いひしも、 5 イエズス尚なほ何なにをも答こたへ給たまはざりしかば、ピラトは之これを感かん嘆たんし居ゐたり。
6 然さて祭さい日じつに當あたり、總そう督とくが、人々ひとびとの乞こふ所ところの囚しう人じん一個ひとりを、彼かれ等らに釋ゆるすの例れいありしが、 7 茲ここに一いっ揆きの時とき人ひとを殺ころして、一いっ揆きの者もの等どもと共ともに入にう獄ごくしたるバラバといへる者ものありき。 8 群ぐん衆しゅう出しゅっ頭とうして例れいの如ごとく爲せられん事ことを願ねがひ出いでしに、 9 ピラト答こたへて、汝なんぢ等ら、ユデア人じんの王わうを我われより釋ゆるされん事ことを欲ほっするか、と云いへり。 10 是これ大だい司し祭さい等らが嫉ねたみによりて之これを付わたしたることを知しればなり。 11 然しかるに大だい司し祭さい等ら、寧むしろバラバを己おのれ等らに釋ゆるさしむべく、群ぐん衆しゅうを唆そそのかししかば、 12 ピラト又また答こたへて、然しからばユデア人じんの王わうを我わが如何いかに處しょ分ぶんせん事ことを欲ほっするか、と云いひしに、 13 彼かれ等ら又また、十じふ字じ架かに釘つけよ、と叫さけびたり。 14 ピラト、彼かれは何なんの惡あくを爲なししぞ、と云いひたれど、彼かれ等ら益ますます、彼かれを十じふ字じ架かに釘つけよ、と叫さけび居ゐたり。 15 ピラト人じん民みんを滿まん足ぞくせしめんと欲ほっして、バラバを彼かれ等らに釋ゆるし、イエズスをば鞭むちうちて後のち、十じふ字じ架かに釘つけん爲ために引ひき付わたせり。 16 是これに於おいて兵へい卒そつ等ら、イエズスを廰やくしょの中うち庭にはに引ひき出いだして、全ぜん隊たいを呼よび集あつめ、 17 イエズスに赤あかき袍うはぎを着きせ、茨いばらの冠かんむりを編あみて冠かむらせ、 18 ユデア人じんの王わうよ安やすかれ、と云いひて、禮れいし始はじめ、 19 尚なほ葦よしもて其その頭かうべを擊うち、唾つば吐はきかけ、跪ひざまつきて拜はいし居ゐたり。 20 嘲てう弄ろうして後のち、赤あかき袍うはぎを褫はぎて、原もとの衣い服ふくを着きせ、十じふ字じ架かに釘つけんとて引ひき出だししが、 21 一個ひとりのシレネ人じん、名なをシモンと呼よびて、アレキサンデルとルフォとの父ちちなるもの、田舎ゐなかより來きたりて通とほりかかりければ、强しひて是これに其その十じふ字じ架かを負おはせ、 22 イエズスを、ゴルゴタと云いふ處ところに引ひき行ゆけり。ゴルゴタは(カルヴァリオ)即すなはち髑髏されかうべの處ところと譯やくせらる。
23 又また没もつ藥やくを和まぜたる葡ぶ萄だう酒しゅを、イエズスに飮のましめんとしたれど、受うけ給たまはざりき。 24 斯かくて之これを十じふ字じ架かに釘つくるや、誰たれが何なにを取とるべきと、籤くじを抽ひきて其その衣い服ふくを分わかてり。 25 九時じ頃ごろイエズスを十じふ字じ架かに釘つけしが、 26 其その罪すて標ふだにはユデア人じんの王わうと記しるされたりき。 27 是これと共ともに二人ふたりの强盗がうたう、一人ひとりは其その右みぎに、一人ひとりは其その左ひだりに十じふ字じ架かに釘つけられたり。 28 斯かくて[聖せい]書しょに、「彼かれは罪つみ人びとに列れつせられたり」とある事こと成じゃう就じゅせり。
29 往わう來らいの人々ひとびとイエズスを罵ののしり、首かうべを揺ふりて云いひけるは、吁ああ神しん殿でんを毀こぼちて三日みっかの内うちに建たて直なほす者ものよ、 30 十じふ字じ架かより下おりて自みづからを救すくへ、と。 31 大だい司し祭さい等らも亦また同おなじく嘲あざけりて、律法りっぱう學がく士し等らと語かたり合あひけるは、彼かれは他た人にんを救すくひしに、自みづからを救すくふ能あたはず。 32 イスラエルの王わうキリスト、今いま十じふ字じ架かより下おりよ、然しからば我われ等ら見みて信しんぜん、と。共ともに十じふ字じ架かに釘つけられたる者もの等らも、亦また之これを罵ののしり居ゐたり。
33 十二時じに至いたり、地ち上じゃう徧あまねく暗黑くらやみとなりて三時じに及およびしが、 34 時ときにイエズス、聲こゑ高たかく呼よばはりて、エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニと曰のたまへり。 是これは、我わが神かみ我わが神かみ、曷なんぞ我われを棄すて給たまひしや、と云いふ義ぎなり。 35 傍かたはらに立たてる人々ひとびとの中うち、或ある者もの等ども聞ききて、エリアを呼よぶよ、と云いひけるに、 36 一人ひとり走はしり行ゆきて、酢すを海かい綿めんに含ふくませ、葦よしに附つけて飮のましめつつ、措おけ、エリア來きたりて彼かれを下おろすや否いなやを見みん、と云いひけるが、 37 イエズス聲こゑ高たかく呼よばはりて、息いき絶たえ給たまへり。 38 時ときに[神しん]殿でんの幕まく上うへより下したまで二ふたつに裂さけしが、 39 イエズスの對面むかうに立たてる百ひゃく夫ふ長ちゃう、斯かく呼よばはりて息いき絶たえ給たまひしを見みて云いひけるは、實げに此この人ひとは神かみの子こなりき、と。
40 又また遥はるかに眺ながめ居ゐたりし婦ふ人じん等らありて、其その中うちにはマグダレナ、マリア及および小せうヤコボとヨゼフとの母ははマリア、並ならびにサロメありき。 41 彼かれ等らはイエズスのガリレアに居ゐ給たまひし時とき、從したがひて事つかへ居をりしが、此この外ほかにイエズスと共ともにエルザレムに上のぼりたりし婦ふ人じんも多おほく居ゐたりき。
42 夕ゆふ暮ぐれに及およびて、安息日あんそくじつの前まへなる用よう意い日びなれば、 43 頭かしら立だちたる議ぎ員ゐんアリマテアのヨゼフ來きたり、己おのれも神かみの國くにを待まてる者ものなれば、憚はばからずしてピラトの許もとに至いたり、イエズスの屍しかばねを求もとめしが、 44 ピラトはイエズス最も早はや死し亡ばうしたりやと訝いぶかり、百ひゃく夫ふ長ちゃうを召めして、旣すでに死ししたりやと問とひ、 45 百ひゃく夫ふ長ちゃうより聞きき知しりて後のち、ヨゼフに其その屍しかばねを與あたへたり。 46 ヨゼフ布ぬのを買かひて、イエズスを下おろして其その布ぬのに包つつみ、岩いはに鑿ほりたる墓はかに納をさめ、其その墓はかの入い口くちに石いしを轉まろばばし置おけり。 47 マグダレナ、マリアとヨゼフの[母はは]マリアとは、イエズスの置おかれ給たまふ處ところを眺ながめ居ゐたりき。