第三款 イエズス サマリアを過り給ふ。
1 時にイエズス、己が弟子を造り人を洗する事、ヨハネよりも多き由の、ファリザイ人の耳に入りしを知り給ひしかば、
2 ――但洗せるはイエズスに非ずして、其の弟子等なりき――
3 ユデアを去りて再びガリレアに往き給へり。
4 然るにサマリアを通らざるを得ざりしければ、
5 ヤコブが其子ヨゼフに與へし土地に近き、サマリアのシカルと云へる町に至り給ひしが、
6 此處にヤコブの井ありけるに、イエズス旅に疲れて、其儘井の上に坐し給へり、時は十二時頃なりき。
7 爰にサマリアの一人の婦、水汲みに來りしかば、イエズス之に向ひて、我に飮ませよ、と曰へり。
8 是弟子等は食物を買はんとて町に往きたればなり。
9 其時サマリアの婦云ひけるは、汝はユデア人なるに、何ぞサマリアの婦なる我に飮物を求むるや、と。是ユデア人はサマリア人と交らざる故なり。
10 イエズス答へて曰ひけるは、汝若神の賜を知り、又我に飮ませよと汝に云へる者の誰なるかを知らば、必ず彼に求め、彼は活ける水を汝に與へしならん。
11 婦云ひけるは、君よ、汝は汲む物を有たず、井は深し、然るを何處よりして活ける水を有てるぞ。
12 我等が父ヤコブ此井を我等に與へ、自らも其子等も其家畜も之より飮みしが、汝は彼より優れる者なるか。
13 イエズス答へて曰ひけるは、總て此水を飮む者は復渇くべし、然れども我が與へんとする水を飮む者は永遠に渇かず、
14 我が之に與ふる水は、却て彼に於て、永遠の生命に湧出づる水の源となるべし。
15 婦云ひけるは、君よ、我が渇く事なく此處に汲みにも來らざる様、其水を我に與へよ。
16 イエズス曰ひけるは、往きて夫を呼來れ。
17 婦答へて、我は夫なし、と云ひしかば、イエズス曰ひけるは、善くこそ夫なしと云ひたれ、
18 夫は五人まで有ちたりしに、今あるは汝の夫に非ず、汝が然云ひしは實なり。
19 婦云ひけるは、君よ、我觀るに、汝は預言者なり。
20 我等が先祖は此山にて禮拜したるに、汝等は云ふ、禮拜すべき處はエルザレムなりと。
21 イエズス曰ひけるは、婦よ、我を信ぜよ、汝等が此山となくエルザレムとなく、父を禮拜せん時來るなり。
22 汝等は知らざる者を禮拜し、我等は知りたる者を禮拜す、救はユデア人の中より出づればなり。
23 然て眞の禮拜者が、靈と實とを以て父を禮拜すべき時來る、今旣に其時なり。其は父も、斯く己を禮拜する人を求め給へばなり。
24 神は靈にて在せば、之を禮拜する人は、靈と實とを以て禮拜せざるべからず、と。
25 婦イエズスに謂ひけるは、我はメッシア( 所謂キリスト)の來るを知る。然れば彼來らば萬事を我等に告ぐべし。
26 イエズス之に曰ひけるは、汝と語りつつある我、即ち其なり、と。
27 軈て弟子等來り、イエズスの婦と語り給へるを怪しみしかど、誰も何をか求め何故彼と語り給ふ、と云ふ者なかりき。
28 斯て婦、其水瓶を遺して町に往き、其處なる人々に向ひ、
29 來て見よ、我が爲しし事を殘らず我に云ひたる人を、是はキリストならんか、と云ひしかば、
30 彼等町より出でてイエズスの許に來れり。
31 其隙に弟子等イエズスに請ひて、ラビ食し給へ、と云ひしに、
32 曰ひけるは、我には汝等の知らざる食物の食すべきあり、と。
33 弟子等、誰か食物を持來りしぞ、と云ひ合へるを、
34 イエズス曰ひけるは、我が食物は、我を遣はし給ひし者の御旨を行ひて其業を全うする事是なり。
35 汝等は、尚四箇月の間あり、其後収穫の時來る、と云ふに非ずや。我汝等に告ぐ、目を翹げて田畑を見よ、最早穫取るべく白みたり。
36 穫る人は報を受けて永遠の生命に至るべき果を収むれば、播く人も穫る人も共に喜ぶべし。
37 諺に一人は播き一人は穫ると云へる事、是に於て乎實なり。
38 我汝等を遣はして、勞作せざりし物を穫らしめたり。即ち他の人前に勞作して、其勞作したる所を、汝等が承繼ぎたるなり、と。
39 然て彼町にては、彼人我が爲しし事を殘らず我に告げたり、と證したる婦の言によりて、多くのサマリア人イエズスを信ぜしかば、
40 人々御許に來りて、此處に留り給はんことを請へり、然れば此處に留り給ふ事二日にして、
41 尚多くの人御言によりて之を信仰せり。
42 斯て彼婦に向ひ、我等は最早汝の語る所によりて信ずる者に非ず、即ち自ら彼に聽きて、其眞に救世主たる事を知れり、と云ひ居たり。
第四款 イエズス ガリレアに至り給ふ。
43 然るに二日の後、イエズス其處を出でてガリレアに往き給へり。
44 預言者其本國に尊ばれず、と自ら證し給ひしが、
45 ガリレアに至り給ひしに、ガリレア人は、曾て祭日にエルザレムにて行ひ給ひし一切の事を見たりければ、イエズスを歡迎せり、其は彼等も祭日に往きてありしなり。
46 斯てイエズス再び、嚮に水を酒に化し給ひしガリレアのカナに至り給ひしに、一人の王官あり、其子カファルナウムにて病み居ければ、
47 イエズス ユデアよりガリレアに來給ふと聞きて、御許に至り、下りて己が子を醫し給はん事を切に願ひ居たり、彼將に死なんとすればなり。
48 イエズス之に曰ひけるは、汝等は徴と奇蹟とを見ざれば信ぜず、と。
49 官人イエズスに向ひて、主よ、我子の死なざる前に下り來給へ、と云ひしに、
50 イエズス、往け、汝の子活く、と曰ひしかば、此人イエズスの己に曰ひし御言を信じて往きたり。
51 然て下る途に、僕等行逢ひて、其子の活きたる由を告げければ、
52 其回復せし時刻を問ひしに、彼等、昨日の午後一時に熱去れり、と云ふにぞ、
53 父は恰もイエズスが汝の子活くと己に曰ひしと同時なりしを知り、其身も一家も擧りて信仰せり。
54 此第二の奇蹟は、イエズス ユデアよりガリレアに至り給ひし時に行ひ給ひしなり。