26_02

第18章 (ヨハネ聖福音書)

 第二項 イエズスの御死去及御復活。
  第一款 イエズスの御受難。

1 イエズス斯かく曰のたまひて、弟子でし等たちと共ともにセドロンの渓たに流がはの彼方かなたに出いで給たまひしが、其處そこに園そのの在ありけるに、弟子でし等たちを伴ともなひて入いり給たまへり。 2 イエズス屡しばしば弟子でしと共ともに此處ここに集あつまり給たまひければ、彼かれを賣うれるユダも處ところを知しり居ゐたり。
3 然さればユダは、一いっ隊たいの兵へい卒そつ及および下した役やく等どもを大だい司し祭さいファリザイ人じんより受うけて、提ちゃう灯ちんと炬たい火まつと武ぶ器きとを持もちて此處ここに來きたれり。 4 イエズス我わが身みに來きたるべき事ことを悉ことごとく知しり給たまひて、進すすみ出いでて彼かれ等らに向むかひ、誰たれを尋たづぬるぞ、と曰のたまひしかば彼かれ等ら、ナザレトのイエズスを、と答こたへしに、 5 イエズス、其そは我われなり、と曰のたまひしが、彼かれを付わたせるユダも彼かれ等らと共ともに立たち居ゐたり。 6 然さてイエズスが我われなりと曰のたまふや、彼かれ等ら後あと退ずさりして地ちに倒たふれたり。 7 イエズス乃すなはちち復また、汝なんぢ等ら誰たれを尋たづぬるぞ、と問とひ給たまひしに彼かれ等ら、ナザレトのイエズスを、云いひたれば、 8 イエズス答こたへ給たまひけるは、我われ旣すでに我われなりと汝なんぢ等らに告つげたり、我われを尋たづぬるならば、此この人々ひとびとを容ゆるして去さらしめよ、と。 9 是これ曾かつて、我われに賜たまひたる人々ひとびとを我われ一人ひとりも失うしなはざりき、と曰のたまひし御おん言ことばの成じゃう就じゅせん爲ためなり。
10 時ときにシモン、ペトロ劔つるぎを持もちたりしかば、拔ぬきて大だい司し祭さいの僕しもべを擊うち、其その右みぎの耳みみを切きり落おししが、其その僕しもべの名なをマルクスと云いへり。 11 然さてイエズス ペトロに曰のたまひけるは、汝なんぢの劔つるぎを鞘さやに収をさめよ、父ちちの我われに賜たまひたる杯さかづきは我われ之これを飮のまざらんや、と。 12 斯かくて兵へい隊たい、千せん夫ぷ長ちゃう、及およびユデア人じんの下した役やく等ども、イエズスを捕とらへて之これを縛しばり、 13 先まづアンナの許もとに引ひき行ゆけり、是これ其その年としの大だい司し祭さいたるカイファの舅しうとなるが故ゆゑにして。 14 カイファは曾かつてユデア人じんに向むかひて、一人ひとりが人じん民みんの爲ために死しするは利りなり、との忠ちゅう告こくを與あたへたりし人ひとなり。
15 然しかるにシモン、ペトロ及および他ほかの一人ひとりの弟子でし、イエズスの後あとに從したがひたりしが、彼かの弟子でしは曾かつて大だい司し祭さいに知しられたりければ、イエズスと共ともに大だい司し祭さいの庭にはに入いりしも、 16 ペトロは門もんの外そとに立たちてありしに、彼かの大だい司し祭さいに知しられたりし弟子でし出いでて門もん番ばんの婦をんなに語かたらいしかば、ペトロを内うちに入いれたり。 17 斯かくて門もん番ばんの婦をんなペトロに向むかひ、汝なんぢも彼かの人ひとの弟子でしの一人ひとりならずや、と云いひしに彼かれ、然しからずと云いへり。 18 時ときしも寒さむかりければ、僕しもべ及および下した役やく等ども、炭すみ火ひの傍そばに立たちて煬あたり居をるに、ペトロも立たち交まじりて煬あたり居をれり。
19 然さて大だい司し祭さいは其その弟子でしと敎をしへとに就つきてイエズスに問とひしかば、 20 イエズス之これに答こたへ給たまひけるは、我われは白地あからさまに世よに語かたり、何時いつも凡すべてのユデア人じんの相あひ集あつまる會くわい堂だう及および[神しん]殿でんにて敎をしへ、何なに事ごとをも密ひそかに語かたりし事ことなし、 21 汝なんぢ何なんぞ我われに問とふや、我わが語かたりし所ところを聽ちゃう聞もんしたる人々ひとびとに問とへ、彼かれ等らこそ我わが言いひし所ところを知しるなれ、と。 22 斯かく曰のたまひしかば、立たち合あへる一人ひとりの下した役やく、手てにてイエズスの頬ほほを打うち、汝なんぢ大だい司し祭さいに答こたふるに斯かくの如ごときか、と云いひしを、 23 イエズス答こたへ給たまひけるは、我わが言いひし事こと惡あしくば其その惡あしき所以ゆゑんを證しょうせよ、若もし善よくば何なん爲すれぞ我われを打うつや、と。 24 斯かくてアンナはイエズスを縛しばりたる儘ままに、大だい司し祭さいカイファの許もとに送おくりたりき。
25 然さてシモン、ペトロ火ひに煬あたりつつ立たてるに、人々ひとびと、汝なんぢも彼かれが弟子でしの一人ひとりならずや、と云いひしかばペトロ否いなみて、然しからずと云いへり。 26 又また一人ひとり、大だい司し祭さいの僕しもべにしてペトロに耳みみを切きり落おとされし人ひとの親しん族ぞくなる者もの、我われ汝なんぢが園そのにて彼かれに伴ともなへるを見みたるに非あらずや、と云いふを、 27 ペトロ又また否いなみたるに、鷄にはとり忽たちまちち鳴うたへり。
28 斯かくて人々ひとびと、イエズスをカイファの許もとより官くわん廰ちゃうに引ひきしが、時ときは天よ明あけなりき。彼かれ等らは汚けがれずして過すぎ越こしの犠ぎ牲せいを食しょくし得えん爲ために、其その身みは官くわん廰ちゃうに入いらざりしかば、 29 ピラト彼かれ等らの居をる所ところに出いでて、汝なんぢ等ら彼かの人ひとに對たいして如何いかなる事ことを告こく訴そするぞ、と云いひしに、 30 彼かれ等ら答こたへて、彼かれ若もし惡あく人にんならずば我われ等ら之これを汝なんぢに付わたさざりしならん、と云いひければ、 31 ピラト彼かれ等らに向むかひ、汝なんぢ等ら之これを引ひ受うけて汝なんぢ等らが律法りっぱうの儘ままに審さばけ、と云いひしにユデア人じん、我われ等らは人ひとを殺ころす事ことを允ゆるされず、と云いへり。 32 是これイエズスが曾かつて、如何いかなる死しに狀ざまを以もって死しすべきかを、示しめして曰のたまひし御おん言ことばの成じゃう就じゅせん爲ためなりき。
33 是ここに於おいてピラト再ふたたび官くわん廰ちゃうに入いり、イエズスを呼よび出いだして、汝なんぢはユデア人じんの王わうなるか、と云いひしに、 34 イエズス答こたへ給たまひけるは、汝なんぢ之これを己おのれより云いへるか、又また人ひと我われに就つきて汝なんぢに告つげたるか。 35 ピラト答こたへけるは、我われ豈あにユデア人じんならんや、汝なんぢの國こく民みんと大だい司し祭さい等らと汝なんぢを我われに付わたしたるが、汝なんぢ何なにを爲なしたるぞ。 36 イエズス答こたへ給たまひけるは、我わが國くには此この世よのものに非あらず、若もし我われ國くに此この世よのものならば、我われをユデア人じんに付わたされじとて、我わが臣しん僕ぼくは必かならず戰たたかふならん、然されど今いま我われ國くには茲ここのものならず、と。 37 斯かくてピラト イエズスに向むかひ、然しからば汝なんぢは王わうなるか、と云いひしにイエズス答こたへたまいけるは、汝なんぢの云いへる[が如ごとし、]我われは王わうなり、我われ之これが爲ために生うまれ、之これが爲ために世よに來きたれり。即すなはち眞しん理りに證しょう明めいを與あたへん爲ためなり、總すべて眞しん理りに據よれる人ひとは我わが聲こゑを聽きく、と。 38 ピラト イエズスに謂いひけるは、眞しん理りとは何なんぞや、と。
斯かく云いひて再ふたたびユデア人じんの所ところに出いで行ゆき、彼かれ等らに云いひけるは、我われ彼かの人ひとに何なんの罪つみをも見み出いださず、 39 但ただし過すぎ越こしの祭まつりに當あたりて、我われ汝なんぢ等らに一人ひとりを赦ゆるすは汝なんぢ等らの慣くわん例れいなるが、然しからばユデア人じんの王わうを我われより赦ゆるされん事ことを欲ほっするか、と。 40 是ここに於おいて彼かれ等ら復また一同いちどうに叫さけびて、其その人ひとならでバラバを、と云いへり、バラバは即すなはち强盗がうたうなりき。